購買行動モデル DREAMとは
購買行動モデル DREAMとは、博報堂買物研究所が2025年1月21日に発表した、新しい購買行動モデルです。このモデルは、ECを中心として、AIエージェントを活用した購買体験の変化が進んでいるという背景のもとに作られました。
これまでのように「自分で検索して比較する」のではなく、AIエージェントを前提としているのが、DREAMモデルの大きな特徴です。AIエージェントを前提としたこのモデルは、今後のスタンダードとなる可能性があります。
購買行動モデルとは
購買行動モデルとは、消費者が商品やサービスを認知してから購入に至るまでのプロセスを体系化したマーケティングフレームワークのことです。商品やサービスを購入するまでには、一定の行動や心理状態を経ているという考えのもとつくられました。
消費者を取り巻く環境の変化に応じた様々なモデルがあります。
AIエージェントとは
DREAMモデルの提唱背景にある「AIエージェント」がいったいどんなものなのかについて解説します。
AIエージェントとは、人が設定したゴールに対し、自ら必要なデータを収集してタスクを決定し、目標達成に向けて遂行するという自律的なソフトウェアシステムのことです。
特徴は、「自律性」「適応性」「対話性」の3つです。具体的には、自ら意思決定、実行など必要なアクションを起こす、新しい情報や環境の変化に応じて行動を調整する、ユーザーや他のシステムと協働する、ということができます。
AIエージェントはいくつかの種類があり、活用事例としては、AIオペレーターやチャットボットなどがあります。
対話型エージェント(例:AppleのSiri、AmazonのAlexa)
タスク自動化エージェント(例:RPAツール)
検索エージェント(例:Felo、Google Alerts)
生成型エージェント(例:ChatGPT、Stable Diffusion)
AIエージェントについて詳しくは、「AIエージェントとは|特徴や生成AIとの違いをわかりやすく解説」をご覧ください。
DREAMモデルが注目される背景
DREAMモデルが注目される理由は、現代の消費者の購買行動が変化し、それに対応するための新しいマーケティング手法が求められています。従来の購買行動モデルではカバーしきれなかった複雑化した消費者行動に対応するため、DREAMモデルが注目を集めています。
現代の購買行動の変化
近年、消費者の購買行動は、オンラインとオフラインが融合した複雑なプロセスを経る傾向が強まっています。テレビや雑誌広告が主流だった時代においては、消費者が広告を見て単純に購入する流れが一般的でしたが、現在では次のような要素が絡んでいます。
消費者は購入前にインターネットでリサーチを行い、口コミやレビューを参考にする。
SNSやYouTubeなどのプラットフォームを通じて商品を発見し、認知する。
購入後には自身の体験をSNSで共有する。
このように、消費者の購買行動は情報収集、購入、共有のプロセスが相互に影響し合うようになりました。
DREAMモデルの5つのプロセス
DREAMモデルは5つのプロセスから成り立っています。そのプロセスは以下のとおりです。それぞれについて解説します。
1. Dialogue(対話)
2. Recommended(推奨される)
3. Experience(体験)
4. Assurance(確信/承認)
5. Management(管理)

出典:博報堂買物研究所、「買物フォーキャスト2025」発表 AIエージェントの活用で変わる新しい購買行動モデル「DREAM」を提唱~「検索」から「対話」へ、「選択」から「承認」へ~ |ニュースリリース|博報堂 HAKUHODO Inc.
1. Dialogue(対話)
AIエージェントと対話する段階です。対話することで、好みや価値観、ライフスタイルを共有します。AIエージェントは過去の購入履歴や検索履歴をもとに、生活者のニーズを把握し、それに基づいた情報を提供できます。
今後さらに技術が進化すれば、対話を通して生活者自身も気がついていない潜在ニーズを発見できるようになり、更に深くパーソナライズされた提案が実現すると言われています。
2. Recommended(推奨される)
AIエージェントから選択肢を提案されます。この選択肢は、対話によって明らかになった価値観やニーズに沿って提案されます。提案された選択肢をもとに、生活者は自分の好みやライフスタイルにあった選択肢を見つけ出します。このプロセスでは、AIエージェントによる提案と生活者の直感を尊重しながら、納得感のある最適な選択が行われます。
3. Experience(体験)
選んだ選択肢を実際に体験する段階です。現実での試用では、商品の実際の質感や操作性を直接確認できます。これに加え、バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)といった体験が広まれば、リアルとバーチャルの融合した購買体験ができるようになります。
技術が進化し、視覚以外の感覚の精度が高まれば、商品選びがより具体的で豊かになります。
4. Assurance(確信/承認)
体験を重ねたあと、購入を決定する段階です。
現実での試用と仮想体験を一定期間使用しながら行き来することで、商品の特性や生活への適合性を検証します。
検証により確信が得られた段階で、AIエージェントを通じて商品やサービスを購入します。
リアルとバーチャルの融合した体験により安心感を高め、納得感のある選択ができます。
5. Management(管理)
購入後、AIエージェントを通して商品の使い方を確認したり、メンテナンスを依頼できる段階です。
近未来では、この段階における使用者の心拍数や視線データなどの生体情報、さらには商品使用履歴、感想をAIエージェントに共有することで、趣味や傾向をより理解してもらえるようになるとされています。
AIエージェントが嗜好やニーズを学習し続けた結果が、次回のDialogue(対話)で使用され、よりパーソナライズ化されていきます。
DREAMモデルによる変化
現在、購入までには自身で情報を収集し、比較・検討した上で選択するプロセスを経ることが一般的です。しかし、DREAMモデルが購買までのオーソドックスなモデルになると、様々なプロセスにおいて変化がおこる可能性があります。
1. 商品の探し方は「検索」から「対話」へ
購買プロセスの出発点が、商品の「情報を探す」から、AIエージェントとの「対話を通じてニーズを引き出す」へと変わります。対話を通じて、潜在ニーズまで自然に拾い上げ、新たな発見や満足感を得られます。
これにより、自分で探していただけでは見つからなかった商品と出会える可能性が上がります。
2. 選択の仕方は「自分で決める」から「AIエージェントと決める」へ
膨大な情報を比較し、自分で商品・サービスを決定する「自分で決める」から、AIエージェントが対話で得た情報をもとに的確な提案をおこなう「AIエージェントと決める」へと変化します。これにより、膨大な数の製品・サービスから自分のニーズにあったものを見つける工程が減り、商品選びの効率の向上、比較・検討の負担の軽減が可能です。
特に、この変化は高額商品においても短期間で購入決定が可能になると言われています。
3. 商品試用は「リアル」+「バーチャル」での体験へ
商品体験が、実店舗に加え、VRやARを活用した試用もできるようになります。視覚や触覚、嗅覚なども仮想的に体験できるようになると考えられているため、購入前に商品の適合性をより深く確認できると予測されます。
これにより、実店舗が遠い場合やない場合にも試用ができ、体験をしてから検討できる商品の幅が広まります。
4. 顧客の声は「一部」から「みんな」へ
購入後の口コミは、一部の投稿者の意見が中心でしたが、AIエージェントへのフィードバックを通じ、より多くの顧客の意見が反映される仕組みへと変わります。これにより、AIエージェントが商品について学習・蓄積し、より嗜好や傾向を理解した提案ができるようになります。
その結果、自分の意見が反映されることに価値を感じた人々がフィードバックをすることで、どのようなニーズにあうのか、というようなデータが蓄積され、提案精度がさらに向上します。
DREAMモデル活用のポイント
本章では、DREAMモデルを活用する際のポイントについて解説します。
DREAMモデルを活用する際に重要なことは顧客体験をパーソナライズすることです。AIエージェントの能力を最大限に活かし、顧客のニーズや価値観に応じた対応を行うことで、購買体験の満足度を向上させられます。
納得感のある提案をする
AIエージェントとの対話を通じて商品に興味を持ってもらうためには、AIエージェントの提案を顧客に受け入れてもらうことが重要です。そのためには、顧客がDialogue(対話)で答えやすいような質問や、過去のデータに関連する提案を対話内で提供できるよう、あらかじめ設定することが有効です。
たとえば、「普段どのような場面で〇〇を使いますか?」や、「〇〇(以前購入した商品に関連した機能)に不足はありましたか?」といった質問が考えられます。このような質問に回答してもらうことで、顧客のニーズを探ることができます。
さらに、Recommended(推奨)の段階で、3〜5個程度の選択肢を提案することも重要です。選択肢の数を絞り込むと、意思決定の負担を減らせます。また、AIが導き出したデータだけでなく、顧客自身の「これがいい」という直感を尊重する余地を残すことで、満足度を高められます。
商品価値を実感させる仕組み
今後はバーチャルとリアルが融合し、購入前に商品を体験できる機会が広がります。商品の価値を実感させるためには、普段の使用状況がより想像できるようにすることが必要です。
例えば、インテリア商品では、自宅の写真を取り込んで家具の配置をシミュレーションできるサービスが有効です。インターネット上で商品画像をあらゆる角度から眺めることのできる、360度回転画像を作成するのもおすすめです。
また、リアルで体験したいという人のために、バーチャル技術の導入だけでなく、実際に体験できる場を提供することも重要です。
購入後のサポートを徹底
AIエージェントが購入後にフォローアップを行い、商品使用のアドバイスやメンテナンスのスケジュールを提案することで、顧客との関係が強化できます。たとえば、化粧品であれば「次回の購入タイミング」をリマインドする機能が効果的です。
購入後のサポートが手厚ければ、ブランドへの信頼感が向上し、次の購買行動につながる可能性もあります。