近年、日本の農業は深刻な担い手不足や気候変動などの課題に直面しています。これらの課題を解決する鍵として注目されているのが「農業×IT」の取り組みです。
本記事では、日本の農業が抱える問題点とITによる解決策、さらには導入事例や活用できる支援制度までを詳しく解説します。農業の未来を切り拓くためのヒントとして、ぜひご一読ください。
近年、日本の農業は深刻な担い手不足や気候変動などの課題に直面しています。これらの課題を解決する鍵として注目されているのが「農業×IT」の取り組みです。
本記事では、日本の農業が抱える問題点とITによる解決策、さらには導入事例や活用できる支援制度までを詳しく解説します。農業の未来を切り拓くためのヒントとして、ぜひご一読ください。
目次
農業とITの融合は一見すると異質な組み合わせに思えるかもしれません。しかし、日本の農業が直面している課題を考えると、IT導入は必然的な流れとなっています。
人口減少・高齢化が進む農村地域において、労働力不足など、農業に関するさまざまな課題に対応するため、スマート農業の推進は不可欠とされています。
本章では、実際に現在の農業を取り巻く課題についてご紹介します。
農林水産省の2023年の統計によると、普段仕事として主に自営農業に従事している基幹的農業従事者は、平成27年から令和6年までの間に、約64.3万人減少しています。またそのうちの70%以上が65歳以上であり、平均年齢は69.2歳となっています。
このように、基幹的農業従事者が減少する一方、新規自営農業就農者は年々減少し、それにともない新規自営農業のうちの49歳以下の人口も減少しており、日本の農業では担い手不足と高齢化という課題が発生しています。
農産物の輸入自由化により、国内農業は価格競争にさらされています。農林水産省の貿易統計によれば、2022年の農林水産物の輸入額は前年比31.9%増の13兆4,224億円に達し、国内市場における外国産農産物の存在感は年々拡大しています。
近年の異常気象は作物の生育に大きな影響を与えています。気象庁の調査によれば、時間降水量80mm以上、3時間降水量150mm以上、日降水量300mm以上など強度の強い雨は、1980年頃と比較して、おおむね2倍程度に頻度が増加しています。また、真夏日・猛暑日の日数も増加しています。
大雨の発生頻度が高いことや、気温が高い日が増えることは、農作物の成長や収穫、品質にも影響をあたえるため、気候変動が問題となっています。
こういった課題に対し、農業にITを導入すると、どのような変化がもたらされるのでしょうか。
最新の自動運転トラクターや収穫ロボットなど、農作業の自動化技術が発展しています。他にも、効率的に作業を記録・管理するための農業関連のアプリも近年増加しています。
これらの技術により、従来人手に頼っていた作業を自動化できます。例えば、クボタの自動運転トラクター「アグリロボ」は、GPSを活用して誤差2cm以内の精度で自動走行が可能です。
「アグリロボ」のように、有人仕様と無人仕様が選べるものもあるため、目的に応じた機械をさがすことが重要です。
他にも、たとえば農業アプリをつかって効率的に作業内容や記録を共有、スケジュールや進捗の管理ができます。
ドローンの活用や、IoTセンサーによる環境モニタリングも効果的です。 ドローンの活用は、農薬散布の作業時間の削減、IoTセンサーの活用はハウス内の環境を最適に調整するのに役立ちます。
土壌センサーやGPSを活用した「精密農業」により、圃場ごとの状態に合わせた最適な栽培管理が可能になります。例えば、ウォーターセルのセンサーは、土壌水分を継続的に監視し、必要な時に必要な量だけ灌水することで、水の使用量を30%以上削減できます。
また、過去のデータと気象情報を組み合わせたAI分析により、収穫量や病害虫の発生を事前に予測できるようになります。例えば、オプティムの「スマートアシスト」は、ドローンで撮影した画像をAIが分析し、生育状況や病害虫の発生を早期に発見します。
直販・ECサイトの構築を行えば、自社サイトやSNSを活用した情報発信により、消費者との直接取引が容易になります。例えば、「ポケットマルシェ」、「食べチョク」、「アウル」などのプラットフォームを活用することで、小規模農家でも全国の消費者に直接販売することが可能です。
また、生産段階から流通過程までの情報を紹介する技術や栽培データや品質データを消費者に公開することも有効です。これらを活用し、生産から消費までの流通過程を可視化することで、食の安全性に対する消費者の信頼を獲得できます。また、「科学的に証明された品質」という新たな付加価値を創出できます。
農業へのIT導入は万能薬ではありません。成功させるためには、いくつかの重要なポイントがあります。
まずは、自社の課題を明確化する必要があります。そのために、現状分析の徹底、優先順位と数値目標の設定を行います。
現状分析の徹底として、まずは自社の農業経営における課題を明確にする。「人手不足」「品質のばらつき」「販路の限界」など、具体的な課題を特定することが重要です。
優先順位の設定をするのは、すべての課題を一度に解決することは困難だからです。まずは影響の大きい課題から着手し、段階的に導入を進めるのが効果的です。
現状分析や優先順位の設定を行った後、「作業時間を30%削減」「不良品率を5%以下に抑える」など、具体的な数値目標を設定することで、IT導入の効果を測定しやすくなります。
IT機器を導入しても、それを使いこなせる人材がいなければ十分な成果を得られません。そのため、ツールの運用体制の設計が重要です。社内での勉強会や外部研修への参加など、人材育成の計画が必要です。
さらに、ツールを利用する中で、センサーの故障やシステムのバグが発生する可能性もあります。そのような場合の対応フローを事前に決めておくことが重要です。対応フローはその都度見直し、よりよいものへと改善していくのが重要です。
いきなり大規模なシステムを導入しても、活用しきれない場合があるため、現在のリソースにあったシステムから導入するのがおすすめです。例えば、まずは環境センサーだけを導入し、その効果を確認してから自動制御システムを追加するといった段階的なアプローチが有効です。
また、他の成功事例があるからといってそのまますぐに採用することにはリスクがあります。同じ作物でも、地域によって栽培条件は異なります。汎用的なシステムをそのまま導入するのではなく、地域の特性に合わせたカスタマイズが必要です。
ここまで、農業×ITの可能性や、成功させるためのポイントについてご紹介しました。
本章では、実際の導入事例についてご紹介します。
農作業の負担軽減技術として、イノフィス社のパワーアシストスーツ「マッスルスーツ」があります。腰や腕などに作業負荷がかかる農作業や、重量物の持ち上げ(下げ)時にかかる負荷を軽減します。
導入効果として、以下のようなものがありました。
年間の作業時間が5.17%短縮された。
特に、中腰姿勢で長時間作業を実施する「定植」「マルチ張り」「収穫」作業において、作業時間削減効果や作業負担軽減効果が高かった。
腰の痛みが軽減され、翌日に疲れが残らなくなった。
フォースターテクニク社による哺乳ロボットは、子牛に自動でミルクを与えます。現在はロボット1台で、20頭(4回/日)の子牛への哺乳を行っています。子牛の首にセンサーを装着し個体毎の哺乳量・回数の設定が可能で、哺乳実績についても個体毎に自動計測されます。
この機械は、ミルクとお湯の配合も自動で行うので、お湯の無駄遣いもなくせます。
手作業で哺乳する場合、20頭の子牛で1日あたり2~3時間程度を要するが、ロボットを活用することで別の管理に労力を充てられるようになったという導入後の声もあがっています。
農業へのIT導入にメリットがあるとはいえ、初期投資が大きな負担となる場合があります。しかし、国や地方自治体ではさまざまな補助金制度や支援事業を用意しており、これらを活用することで導入ハードルを大きく下げることができます。
本章では、農業IT化に関する補助金や支援制度をご紹介します。
農林水産省が行っています。農業者の高齢化・減少が進む中においても農業の持続的な発展を図るため、スマート農業技術の現場導入と生産・流通・販売方式の転換、これを支える 農業支援サービス事業体の育成や活動の促進などの取組を総合的に支援しています。
公募対象となる事業をしている事業が対象で、その年度中に事業が完了することが確実であると見込まれるものが対象です。
詳しくは、農林水産省のHPをご覧ください。
ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者などが革新的サービス開発・試作品開発や生産プロセスの改善などを行うための設備投資を支援する制度です。
事業を営む事業者に対して支援されます。支援対象は、生産性を上げる機械設備やシステムの導入にかかる費用です。
くわしくは、令和6年の補正予算「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の概要をご覧ください。
「農業×IT」は、日本の農業が直面するさまざまな課題を解決し、持続可能な産業へと変革するための重要な取り組みです。さらに、国や自治体による手厚い補助金制度により、初期投資の負担を軽減しながら導入を進めることも可能です。しかし、技術導入は目的ではなく、あくまで手段であることを忘れてはなりません。
重要なのは、自社の課題を明確にし、その解決に最適なITツールを選択すること。そして、それを効果的に運用できる体制を構築することです。
最初から完璧を目指すのではなく、小さな一歩から始め、徐々に規模を拡大していくアプローチが効果的です。失敗を恐れず、常に改善を続ける姿勢こそが、「農業×IT」成功の鍵となるでしょう。
株式会社Coziesでは、農業のIT化をサポートするさまざまなサービスを提供しています。経験豊富なコンサルタントが、現場の状況に合わせた最適なソリューションを提案し、導入から運用まで一貫してサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。