AIエージェントとは
AIエージェントとは、人が設定したゴールに対して、自ら必要なデータを収集してタスクを決定し、目標達成に向けて遂行するという自律的なソフトウェアシステムのことです。
特徴は、「自律性」「適応性」「対話性」の3つです。
具体的には、自ら意思決定、実行など必要なアクションを起こす、新しい情報や環境の変化に応じて行動を調整する、ユーザーや他のシステムと協働する、ということができます。
複数のAI技術を組み合わせることで、対話型のAIツールから進化を遂げているAIエージェントは、従来のAIでは不可能だった複雑なタスクもこなす可能性を秘めています。
生成AIや従来のAIシステムとの違い
AIシステムには他にも、生成AIや機械学習モデルなどがありますが、これらとAIエージェントとの違いは以下になります。
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つまり、AIエージェントは一つのアクションを起こすのに逐一ユーザーからの指示を待つのではなく、一度リクエストがあれば自律的に判断してタスクを遂行できるのです。
AIエージェントが注目される背景
近年、AIエージェントが注目される背景には、テクノロジーの進化だけでなく、社会やビジネス環境の変化が大きく影響しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進
世界的に企業の競争力向上を期待したDX化の波が押し寄せていますが、日本でも企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)が政府によって推進されています。そのなかでも、AIエージェントは業務の効率化や意思決定の支援を行うツールとして、注目を集めています。
民間企業以外でも、全国の自治体で公務員専用のAIエージェント「マサルくん」が利用されています。
労働力不足解消と生産性向上への期待
労働力不足が深刻な問題となっている現在、多くの企業が業務プロセスの効率化や生産性の向上を求めています。そのような背景から、AIエージェントは人間が行うルーチンワークを代替し、人間をクリエイティブな業務に集中させてくれるという期待を担っています。
テクノロジーの進化と利用ハードルの低下
技術の進化により、AIツールを利用しやすくなったことも、AIエージェントが注目される背景の1つです。現在、生成AI(例: ChatGPTやDALL·E)の登場により、自然言語処理や画像生成といった高度な機能を簡単に利用できるようになりました。これにより、個人や中小企業でも初期投資のハードルが低くなり、AIツールの普及が加速しています。
AIエージェントも、クラウドベースのAIサービスやノーコード開発ツールの普及により、専門知識がなくても活用できる環境が整いつつあります。
AIエージェントの主な種類4つ
他のAI技術にも多くの種類があるように、AIエージェントと一口に言っても、いくつかの種類に分けられます。
対話型エージェント(例: 音声アシスタント)
対話型エージェントは、ユーザーとの自然な対話を通じて、情報提供やタスクの実行をするシステムです。
音声認識や自然言語処理(NLP)などの技術を活用し、ユーザーの音声指示やテキスト入力を理解して適切な応答を生成する仕組みです。気象情報の提供、音楽の再生、家電の操作など、日常生活のさまざまな場面で活用されています。
例として、AppleのSiri、AmazonのAlexa、GoogleのGoogle Assistantなどがあります。
タスク自動化エージェント(例: RPAツール)
タスク自動化エージェントとは、定型的な業務プロセスを自動化し、業務効率化を図るシステムです。データの入力や処理の自動化などでよく使用されています。
タスク自動化エージェントの例として、RPA(Robotic Process Automation)ツールが挙げられます。
検索エージェント(例: 情報収集ボット)
検索エージェントとは、ユーザーが指定したテーマやキーワードに基づき、インターネット上の情報を自動的に収集・分析するシステムです。ツールによっては、収集した情報をもとにレポートやプレゼンテーション資料を作成してくれることもあります。
検索エージェントの例として、Felo、Google Alerts、Feedlyなどが挙げられます。
生成型エージェント(例: コンテンツ作成AI)
生成型エージェントとは、テキスト、画像、音声、動画、コードなどの多様なコンテンツを自律的に生成するシステムのことです。ユーザーの指示や学習したデータに基づき、クリエイティブなアウトプットを提供します。
生成型エージェントの例として、テキストを生成するChatGPTやJasper AI、画像を生成するDALL·EやStable Diffusionなどがあります。
ここで紹介した4種類以外にも、セキュリティエージェント、予測型エージェント、教育エージェントなど多くの種類があります。
AIエージェント導入のメリット
複雑なタスクを実行可能なAIエージェントには、多くのメリットがあります。
この章では、主なメリット3つを解説します。
業務効率化とコスト削減
まず、業務効率化とコスト削減に大きく貢献します。特に、ルーチンワークの自動化により、クリエイティビティを必要とされる業務に従業員がより集中できるようになります。
例えば、カスタマーサポート業務では、AIエージェントを導入することで、問い合わせの一次対応を自動化し、オペレーターの負担を軽減します。
また、バックオフィス業務では、経理や人事に関わるデータ入力、書類作成、スケジュール管理などをAIエージェントが担うことで、業務のスピードアップと人的リソースの最適化が可能です。例えば、請求書処理や在庫管理など、定型的な業務の処理精度を向上させることで、ミスの削減にも寄与します。
さらに、AIエージェントは、導入後の運用コストが比較的低く抑えられる点も魅力です。クラウド型のAIエージェントを活用すれば、サーバー管理やメンテナンスコストを最小限に抑えることができます。そのため、初期投資を抑えつつ、中長期的にROI(投資対効果)を向上させることが期待できます。
顧客満足度の向上
2つ目のメリットは、顧客満足度の向上が期待できる点です。AIエージェントは24時間365日稼働できるため、営業時間や担当者の人員配置といった成約を受けることなく、迅速な顧客対応が可能となります。
例えば、Eコマースや金融業界では、深夜や休日にも顧客からの問い合わせが発生します。AIエージェントを導入すれば、商品情報の提供やFAQ対応、口座残高の照会などを即時に対応し、ユーザーの利便性を大幅に向上させることができます。これにより、「すぐに回答を得たい」という顧客ニーズに応えることで、顧客満足度の向上が期待できます。
また、AIエージェントは多言語対応にも優れており、国際的な顧客にもシームレスな対応も可能です。これにより、人的コストを削減しながらのグローバル展開も夢ではないでしょう。
さらに、AIエージェントは、顧客の過去のやり取りを記憶し、パーソナライズされた対応を行うことも可能です。例えば、過去の購入履歴をもとに、おすすめ商品を提示することで、クロスセルやアップセルの機会を創出し、顧客エンゲージメントを高めることができます。
データ分析による意思決定のサポート
3つ目のメリットは、重要な意思決定をサポートしてくれる点です。
AIエージェントは、企業が蓄積する膨大なデータを迅速に分析するため、手作業の情報収集・分析よりも、ビジネス戦略の精度を高めることができます。
例えば、マーケティング分野では、AIエージェントが顧客の購買履歴や行動データをリアルタイムに分析し、最適な広告配信やキャンペーン戦略を立案します。このような作業は人の手だけでは難しいですが、AIエージェントによって迅速かつ的確に事を進められます。
AIエージェントの分析結果は、ダッシュボード形式で視覚的に表示されるため、経営層が直感的に理解しやすく、スピーディな意思決定を支援します。また、予測分析機能を活用することで、将来の市場動向や需要予測を正確に見積もることができ、長期的な事業戦略の立案に役立ちます。
AIエージェント導入の課題
では、AIエージェントの導入にはメリットがある一方、いくつかの課題があります。
本章ではAIエージェントを導入するにあたっての課題について3つ紹介します。
初期導入コストと運用維持費用
AIエージェントの導入で、まず大きな課題の1つとなるのは、初期導入コストです。AIエージェントを導入し、自社の業務に適応させるには、システムの開発・導入、試験運用、インフラ整備、従業員のトレーニングが必要です。これらにはさまざまなコストが発生します。
また、外部のAIベンダーやコンサルティング企業の支援を受ける場合は、自社のみでやるよりもコストがかかることが見込まれます。
さらに、AIエージェントには持続的なメンテナンスやチューニングが重要です。機械学習をベースにしたAIの精度は学習を続けることで向上します。そのためには定期的なデータの更新やモデルの改善が不可欠です。クラウドベースのAIエージェントを活用する場合には、月額費用やデータ処理に伴うコストが継続的に発生します。
これらの理由から、AIエージェントの導入には初期導入コストだけではなく、運用維持費のことも考える必要があります。
データセキュリティとプライバシーの確保
AIエージェントの導入において、データセキュリティとプライバシーの確保も重要です。
AIエージェントには不適切な管理やサイバー攻撃による情報漏洩のリスクが常に伴います。
膨大な顧客データや社内機密情報を処理するため、AIエージェントを業務で活用する際は、特に情報漏洩に気をつけなければなりません。
特に、金融や医療、法律のような顧客情報や機密文書を扱う業種では、AIが扱うデータの機密性が高く、厳格なセキュリティ対策が必要です。
また、GDPR(EU一般データ保護規則)や個人情報保護法などの法規制に準拠する必要があります。GDPRについては、EEA(欧州経済地域)に所在する個人のデータが保護対象となるため、特に以下の企業は注意してください。
子会社、支店、営業所の拠点がEEA域内にある企業
日本からEEAに商品サービスを提供している企業
EEAから個人データの処理を委託されている企業
海外から旅行・ホテル宿泊予約などを受け付けている企業
技術的な限界と特定タスクへの適用性
AIエージェントには多くのメリットがあるものの、技術的な限界も存在するため、特定のタスクに対しては適用が難しい場合もあります。
現在のAIエージェントは、主にパターン認識やルールに基づく意思決定に優れています。その反面、創造的な思考や複雑な判断が必要な業務では、十分な精度ではないことがあります。例としては、以下のようなケースがあります。
感情や倫理的判断が必要な業務(医療相談やカスタマーサポート)
例外的な対応が求められる業務(災害時の危機管理対応)
これらの創造的な意思決定が必要となる場面では、依然として人間の介入が必要です。
AIエージェントを効果的に活用するためのポイント
実際にAIエージェントを導入する・導入した際に効果的に活用し続けるには以下のような3つのポイントがあります。
それぞれについて解説するので、ぜひ参考にしてください。
1、自社の業務目的や用途に合わせた適切な選定
ポイントの1つめは、自社の業務目的や用途に適したエージェントの選定です。業種や業務フローにより、AIエージェントが担うべき役割は大きく異なります。誤った選定を行ってしまうと、十分な効果を発揮できないばかりか、導入コストが無駄になったり、業務がむしろ非効率化したりする可能性があります。
こういった事態を避けるためにも、AIエージェントの導入には、まず業務課題の明確化を行います。整理すべきポイントには以下のものがあります。
解決したい具体的な課題は何か(カスタマーサポートの対応時間短縮、データの入力効率化など)
どの業務に適用するのか(顧客対応、経理処理、マーケティング分析など)
既存システムとの連携は可能か(CRM、ERP、RPAツールとの統合)
これらを整理したうえで、対話型エージェントや検索エージェントなど、それぞれのAIエージェントの特性について理解し、業務に適したものを選んでください。
2、自動化設定やスクリプトの活用による効果最大化
2つめは、自動化設定やスクリプトの活用による効果最大化です。ただAIを導入するだけでは、期待通りの効果を得るのは難しいため、導入目的に応じたカスタマイズが必要です。
たとえば、カスタマーサポート業務にAIエージェントを導入する場合を挙げます。この場合、単に頻繁に尋ねられる質問に自動で応答するのに加え、顧客の購買履歴や行動データをもとにしてパーソナライズ応答の自動化をスクリプトで設定することで、より効果的に顧客対応できます。
このように自動化設定やスクリプトの活用による効果最大化を図るには、業務プロセスの細分化と可視化をし、自動化すべき部分を見極めることが重要です。
自動化設定やスクリプトの活用ができるものとしては以下が挙げられます。
顧客の行動パターンに応じたキャンペーンメールの自動配信(ルールベースと機械学習の組み合わせによる最適化)
将来の需要予測の自動化(カスタムスクリプトの活用による高度な自動化)
3、導入後の継続的なフィードバック収集と改善
3つめは、AIエージェント導入後の継続的なフィードバック収集と改善です。機械学習をベースとしたAIは、持続的なデータ学習により精度を向上させるという特性をもちます。運用開始後に定期的な評価を行い、フィードバックを取り入れることが導入後に持続的に効果の発揮に繋がります。
たとえば、カスタマーサポートでAIエージェントを導入した場合には、「回答の正確性」「応答スピード」「顧客満足度」などを指標として定期的に分析をします。
継続的にフィードバックの収集と改善の繰り返しを行うことで、AIエージェントの精度向上が見込めます。
AIエージェントの活用事例
AIエージェントが実際のところどのように活用されているのか知りたいという方向けに、いくつかAIエージェントの活用事例をご紹介します。
大和証券株式会社
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画像引用:大和証券
大和証券株式会社は、生成AIを活用した「AIオペレーター」を導入しています。
問い合わせの増加と待ち時間の削減のために、複数のAI エージェントがリアルタイムでタスクを高速かつ効率的に処理しています。これにより、リアルタイムで正確なマーケット情報や、信頼性の高い手続き案内を迅速かつ信頼性高く提供することが可能になりました。あわせて、モニタリング AI が応対内容をチェックしています。これにより、有人オペレーターの業務負荷の軽減、24 時間対応が実現しました。
AIオペレーターと上手に対話するコツや、対応範囲と非対応範囲についても公開しています。
参考:大和証券Aiオペレーターガイド
株式会社スクウェア・エニックス
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画像引用:スクウェア・エニックス
株式会社スクウェア・エニックスは、ゲーム開発の効率化を目的に、生成 AI を活用したチャットボット「ひすいちゃん」を導入しました。業務専用のチャットツールやSlackを介して社員のサポートをするチャットボットです。独自(内製)エンジンの知識を持つという特徴があります。リリース以降、ゲームエンジン担当者に気軽に質問でき、ゲームエンジンの活用支援を効率化する環境を提供しています。
さらに、Pythonのコードの自動生成やデータ生成結果の即時確認を可能にする機能も有しており、新人教育や非プログラマーによる活用も進んでいます。
参考:スクエニで生成AIが使われているって本当? 自作AI“ひすいちゃん”を業務で活用する事例を紹介【CEDEC+KYUSYU 2024】 | ゲーム・エンタメ最新情報のファミ通.com