カスタマージャーニーとは商品購入までの一連の流れ

カスタマージャーニーとは、顧客が自身のニーズを認知してから、商品の購入やサービスの契約に至るまでの流れのことです。それを時系列に沿って図式化したものをカスタマージャーニーマップと呼びます。作成する際は、顧客の行動や感情の変化、顧客との接点(タッチポイント)などを定義します。
カスタマージャーニーマップの作成によって、顧客目線での提案を徹底できるため、マーケティング手法の有効な手段として認知されています。
カスタマージャーニーを活用するメリット
カスタマージャーニーマップの作成によって、以下4つのメリットが得られます。
メリットの内容を一つひとつみていきます。
顧客ニーズを把握できる
カスタマージャーニーマップは、商品の購入やサービスの契約に至るまでの顧客の行動や感情の変化を可視化したものです。作成する際は、顧客がどのような行動を取るのか、どのような情報を求めているのかを考えなければなりません。
カスタマージャーニーマップを作成すると、顧客との接点(タッチポイント)を検証するため、顧客体験での課題やニーズを発見しやすくなります。また、自社商品・サービスに関しても顧客目線で評価を下すため、今まで気付かなかった強みや課題を見つけられます。
組織内で共通認識を持てる
カスタマージャーニーマップは商品開発や広報、店舗スタッフなど、異なるポジションの者同士が、意見を重ねて作り上げていくものです。顧客との接点を検証する際、各メンバーに求められるのは「顧客ニーズの把握」や「顧客目線に立った提案」です。
各メンバーの共通認識として「顧客視点の徹底」を共有できると、メンバー間のコミュニケーションがスムーズになります。また、組織内で共通認識を持てているため、トラブルが起きても素早い対応が望めるでしょう。
良質な顧客体験を提供できる
カスタマージャーニーマップを作成すると、商品の購入やサービスの契約に至るまでの流れを顧客視点で構築するため、顧客体験の質を改善できます。良質な顧客体験の提供によって、顧客ロイヤルティが高まり、継続的な購入や契約が望めます。
顧客ロイヤルティとは、顧客が自社商品・サービスに対して抱く愛着や信頼です。ロイヤルティが高い顧客は、自社商品・サービスの購入に特別な感情を持っています。仮に他社で新商品や限定商品が販売されても、簡単に乗り換えません。
リピート率が高く、一人当たりの単価も高いため、ロイヤルティが高い顧客が増えると、安定した収益確保を実現できます。
客観的な指標から課題を抽出できる
カスタマージャーニーは、課題抽出や解決策を立案する際、KPIを活用します。KPIは日本語で「重要業績評価指標」と訳され、プロセスごとの成果を計測するための指標です。マーケティングの際に使用する主なKPIを以下にまとめました。
PV数:ウェブページの閲覧回数(同じユーザーもカウント)
ユニークユーザー:ウェブサイトにアクセスしたユーザー数
セッション数:ユーザーごとのウェブサイトの訪問回数(離脱までを1セッション)
滞在時間:1人のユーザーがウェブサイトに滞在していた時間
コンバージョン率:商品購入をはじめ特定の行動を取ったユーザーの割合
顧客単価:1人のユーザーが1回の購入で支払う平均額
例えば、自社サイトのセッション数が低かったとしましょう。セッション数を高めることができれば、商品やサービスの認知が広がり、購入や契約に繋がる可能性も高くなると考えられます。
ウェブサイトの露出量を増やす方法は、SEO対策やSNSとの連携、ウェブ広告の掲載など、さまざまな選択肢があげられます。どの対策を取るか決めた上で、どのくらいまでセッション数を伸ばしたいか、具体的な数値目標を決めるのもKPIの特徴です。
KPIを活用してカスタマージャーニーマップを作成すると、課題抽出や改善策の立案、目標設定が進めやすくなります。
カスタマージャーニーマップの作り方
カスタマージャーニーマップは以下の手順に沿って作成します。
ペルソナの設定
フォーマットの用意
各フェーズを定義
フェーズごとにペルソナの行動や感情などを記載
不足施策の把握とTODOリストを作成
運用と改善
段階ごとに作業内容をみていきましょう。
1.ペルソナの設定

ペルソナとは、自社商品・サービスを購入して欲しい架空のユーザー像です。ターゲットと異なり、年収や家族構成、居住地など、ライフスタイルに関する部分まで決めます。
ペルソナを作成する目的は顧客目線での提案を徹底し、顧客ニーズの理解を深めることです。メンバー間で共通認識も持てるため、意思決定のスピードや精度も高まります。
2.フォーマットの用意
カスタマージャーニーをマップ化するには、フォーマットが必要です。フォーマットを作成する際は、テンプレートか作図ツール、どちらかを活用するのがおすすめです。テンプレートの場合、カスタマージャーニーマップの大枠が既に完成しており、すぐに運用ができます。
また、テンプレートを無料で入手できるサイトがある点も魅力です。例えば、デザイン事務所「15VISION」のサイトからは、カスタマージャーニーマップ用のテンプレートを無料でダウンロードできます。

引用:15vision
一方、オリジナル性に富んだカスタマージャーニーマップを作成したい場合は、作図ツールの活用がおすすめです。Lucidchartを活用すると、短時間でカスタマージャーニーマップを作成できます。

引用:Lucidchart
3.各フェーズを定義
顧客が自身のニーズを認識してから商品の購入に至るまで、段階別の行動や必要な施策を定義する工程です。段階別に内容をみていきましょう。
1.ユーザーが自身のニーズを認識
顧客は自身の要望や目的を実現するにはどのような手段があるか、調査している段階です。自社の商品・サービスに関してはまだ認知していません。企業側は顧客がどのような悩みを抱え、どのような商品を求めているかを把握する必要があります。
また、自社商品・サービスの存在を顧客に知ってもらうため、積極的な情報発信に努めましょう。自社商品・サービスの認知が遅れるほど、購入につながる可能性は低下します。オウンドメディアやウェブ広告を活用し、商品認知度の向上や潜在ニーズの可視化を図ります。
商品の特性やペルソナによっては、セミナーや展示会の開催なども有効です。
2.具体的な商品・サービスを認知
顧客は悩みや課題解決に向け、条件に合致する商品・サービスを探し始めている段階です。自社商品・サービスへの関心や購買意欲を高めてもらうには、商品・サービスの魅力を顧客に感じてもらうことが重要です。
オウンドメディアやウェブ広告、SNSでの情報発信に努めましょう。サービスサイトやプロモーションサイトを用意している場合は、SEO対策も有効です。Googleで検索上位に表示されると、商品認知度の向上や新規顧客の獲得など、多くのメリットが得られます。
SEO対策は、成果が得られるまで一定の時間や知識の習得が必要ですが、自社で対応すれば費用もかかりません。また、前の段階と同様、商品の特性やペルソナによっては、セミナーや展示会の開催なども選択肢の1つにあげられます。
3.商品・サービスの比較
自社商品・サービスも含めて、複数の商品・サービスを比較検討している段階です。検討材料を増やすため、資料請求やセミナーの参加、企業担当者との商談など、購入に直結する行動を取り始めます。
企業側は自社商品・サービスが競合他社と比べて、どのような点が優れているか、わかりやすく伝えることが重要です。導入企業数やリピート率など、具体的なデータを記載した資料を提供すると、顧客に説得力や安心感を与えられます。
また、顧客と直接商談する際は、自社商品・サービスの魅力を伝えるだけでなく、顧客の疑問や不安を解消するように努めましょう。商品・サービスの購入には一定の費用と時間がかかるため、失敗を避けたいと考える顧客は非常に多いです。
顧客の質問に丁寧に回答すると、商品を購入したあとのイメージが描きやすくなり、顧客の不安を軽減できます。
4.購入
自社商品・サービスを選んでもらえるよう、対面での商談やインサイドセールスを実施します。顧客の購買意欲を保つには、実店舗での接客やECサイトのレイアウト設計も重要な役割を果たします。
5.利用
実際に購入した商品・サービスを利用し、課題解決や目的の達成を目指す段階です。FAQやオンラインマニュアルが充実していると、効率的に情報を収集できるため、顧客が問い合わせの手間を省けます。
ただし、FAQやマニュアルで、顧客が抱えるすべての疑問を解決できる保証はありません。顧客が商品・サービスを安心して使える環境を整えるため、カスタマーサポートを充実させましょう。
また、セミナー開催や動画配信を定期的におこなうと、顧客が商品・サービスの特徴をより細部まで把握できます。
6.再購入またはリピート
継続的に自社商品・サービスを利用してもらえるよう、顧客とコミュニケーションを重ねましょう。商品・サービス購入後のフォローが不足していた場合は、顧客が不信感や不満を抱き、他社商品に乗り換える恐れが生じます。
安定した収益確保に向けては、1人でも多くのリピーターを獲得することが重要です。メルマガ配信や定期的な訪問など、継続的に顧客と接点を持ちましょう。
4.フェーズごとにペルソナの行動や感情などを記載
前段階で定義した顧客の行動や感情、情報発信の手段(タッチポイント)をフォーマットに記載します。また、メンバー同士で話し合い、顧客にとっての理想的な体験を段階別に定義しておきましょう。
理想的な顧客体験を提供できると、顧客との信頼関係が強固になり、自社商品・サービスを購入してもらえる可能性が高まります。たとえば、自社でビジネスチャットを扱っていたとしましょう。ターゲットは、社内でのコミュニケーション不足に悩んでいる企業です。
最初の段階での理想的な顧客体験は、課題の解決策にビジネスチャットが有効と認知してもらう状態と定義します。上記のように理想的な顧客体験を具体化すると、メンバー間の目標や必要な施策が明確になります。
5.不足施策の把握とTODOリストを作成
フォーマットがある程度埋まったら、不足している施策がないかを確認します。なければメンバーや段階別に、実施すべき作業内容をリストアップしましょう。作業内容の割り振りが終わったら、各作業の期限も明確化しておきます。
6.運用と改善
カスタマージャーニーマップは作成して終わりではありません。実際に運用していくなかで、新たな課題が見つかるケースも珍しくありません。新たな課題が見つかった場合は、随時カスタマージャーニーの内容を見直し、顧客体験の質を高めましょう。
カスタマージャーニーの企業事例
カスタマージャーニーマップの作成によって、課題解決や成果獲得を実現した事例を紹介します。
課題抽出や顧客体験の見直しなど、カスタマージャーニーマップを作成する際の参考にご活用ください。
顧客ニーズの可視化|LEGO
LEGOは、顧客体験のデザインのアプローチの一環として、カスタマージャーニーマップを作成しました。

引用:LEGO’s Building Block For Good Experiences | Customer Experience Matters®
LEGOのカスタマージャーニーマップは、以下の3点が特徴です。
1.円形で顧客の行動を表現
カスタマージャーニーマップは四角形で、縦軸と横軸で顧客の行動や感情の変化を表現するのが一般的です。一方、LEGOのカスタマージャーニーマップは、飛行機の搭乗前と搭乗中、搭乗後の大きく3段階に分けた顧客の行動を円形で表現しています。
2.顧客の行動を飛行機の搭乗~利用後と想定
ニューヨークのフライトを例として、book tickets(チケットの予約)、safety procedures(安全手順)など、段階ごとに細かい行動が記載されています。顧客の行動を丁寧に辿ることで、顧客ニーズの把握や顧客目線での提案に役立ちます。
3.顔のアイコンでペルソナの感情を表現
各ステップに顔のアイコンを用いることで、ペルソナの感情の変化が直感的にわかりやすいようなデザインになっています。
公式サイトの有用性と各種指標を改善|日本政府観光局
日本政府観光局(JNTO)では、マーケティング戦略を立案するツールとして、カスタマージャーニーを活用しています。カスタマージャーニーマップでは、外国人旅行者の行動を5段階に分け、行動ごとのメディアの使い方を表現しています。

引用:JNTO
外国人旅行者の行動は以下の5段階で分析されています。
ニーズの認知拡大・興味喚起
興味・関心
比較・検討
予約・来日
帰国・再来日
例えば、1の「ニーズの認知拡大・興味喚起」の段階では日本への興味を持ってもらえるよう、「Japanブランディング」と称し、InstagramやYouTubeなどのSNSを活用して情報発信を行うようにしています。
一方、3の「比較・検討」の段階では日本の天気や通貨など、具体的な情報も記載します。この段階ではグローバルサイトやTripAdvisorなどで発信することで、来日を検討している人に役立つような情報が届くようにしています。
このように、日本政府観光局はカスタマージャーニーマップの作成によって、顧客ニーズを反映した情報発信を行っています。
カスタマージャーニーマップは優良顧客を育成する1つの手段
カスタマージャーニーマップを作成する目的は、良質な顧客体験の提供によって顧客ロイヤルティを高め、優良顧客を育成することです。ただし、顧客ロイヤルティを高める方法は、カスタマージャーニーだけではありません。
SNSの活用やウェブ広告の掲載、ロイヤルティプログラムの実施など、さまざまな手段があります。カスタマージャーニーマップは、顧客体験の質を高められる有効な方法ですが、作成には多くの手間と時間がかかります。
カスタマージャーニーマップは優良顧客を育成するための1つの手段にすぎないため、固執しすぎないようにしましょう。