農業マーケティングとは
農業マーケティングとは、農産品を消費者に対してより魅力的に見せ、分かりやすく伝え、なおかつ効果的に売るための戦略のことを指します。
農業マーケティングの重要性
農業マーケティングは、単なる販促活動ではなく、農業経営そのものを持続可能にするための重要な戦略です。近年、農業を取り巻く環境は大きく変化しており、消費者の価値観の変化や競争の激化、流通の多様化に適応することが求められています。
消費者の意識は「安価な農産品」から「安全で高品質な農産品」へとシフトしています。また、産地や生産者のこだわりを重視し、購入前に情報収集を行う傾向も強まっています。こうした消費者のニーズに応えるためには、単に良い農産品を作るだけでなく、それを適切にアピールし、適正な価格で販売する仕組みを構築することが不可欠です。
さらに、従来の農協出荷に頼った販売モデルでは、価格競争に巻き込まれやすく、農家の収益は安定しにくい状況が続いています。そこで、直接消費者にアプローチする手法や、付加価値のある農産品を開発し、ブランド化することで、より高い利益率を確保することが可能になります。
農業マーケティングを取り入れることで、農家自身が市場を理解し、ターゲットに適した販売方法を選択し、収益性の高い経営を実現できるのです。
一般的なマーケティングとの違い
一般的なマーケティングと異なり、農業マーケティングでは「天候や地域性に左右される製品」「季節ごとの生産変動」「ブランド化が重要となる特殊な市場」など、独自のビジネス環境を考慮する必要があります。
例えば、一般的な製品では「品質の均一性」が重視されますが、農産品は天候や土壌条件によって品質が変動するため、その変化を魅力として消費者に伝えることが重要になります。
農業マーケティングでは、こうした特性を踏まえた戦略的なアプローチが求められます。
農業におけるマーケティング戦略
この章では、農業マーケティングの戦略設計について、具体的に解説します。
ターゲット市場の明確化
農産品を効果的に販売するためには、まずターゲット市場を明確にする必要があります。以下のような視点で市場を分類し、それぞれに適したアプローチを検討します。
一般消費者向け(BtoC):スーパーや直売所での販売、ECサイトやSNSを活用した直接販売。
企業向け(BtoB):飲食店や食品加工業者との提携、契約栽培の導入。
輸出市場:海外の需要を視野に入れた販路拡大、認証取得によるブランド価値の向上。
一般消費者向けの販売では、スーパーや直売所を活用するだけでなく、ECサイトやSNSを通じた直接販売を展開することで、新たな顧客層を開拓できます。特に都市部の消費者は産地直送の新鮮な農産品を求めているため、インターネットを活用した販売が有効です。
一方、企業向けの販売では、飲食店や食品加工業者との提携を進め、契約栽培を取り入れることで安定した供給体制を構築できます。また、輸出市場の開拓も視野に入れ、海外の需要に応じた商品開発や、認証取得によるブランド価値の向上を図ることが重要です。
ブランド化と差別化
市場競争が激化する中で、他の農産品と差別化を図るためには、ブランド化が不可欠です。ブランド化には以下の要素が含まれます。
ストーリー性のあるブランディング:地域の特性や生産方法を強調し、消費者に価値を伝える。
品質の一貫性:消費者の信頼を得るために、安定した品質を提供する。
認証取得:有機JASやGAP認証など、消費者に安心感を与える制度を活用。
例えば、地域の特性や生産方法にこだわりを持ち、それを消費者に伝えることで、付加価値を高めることができます。有機栽培や特別栽培農産品の認証を取得し、消費者に安全性をアピールするのも有効な手段です。また、パッケージデザインや販促ツールの工夫によって、視覚的に魅力を伝えることも重要です。
販売チャネルの多様化
従来の農協出荷や市場流通だけでなく、新しい販売チャネルを活用することで、より多くの消費者にアピールし、売上を拡大できます。
ECサイトやSNSを活用した直販:InstagramやLINE公式アカウントを活用した販促活動。
マルシェや直売所への出店:地元の消費者との接点を増やし、リピーターを獲得。
ふるさと納税やクラウドファンディングの活用:地域の特産品としての認知度を向上。
近年では、ECサイトやSNSを活用した直販が急成長しています。InstagramやLINE公式アカウントを活用し、生産者自身が消費者に直接情報を発信することで、信頼関係を築きながら販売を拡大できます。
また、マルシェや直売所に出店することで、地域の消費者と直接コミュニケーションを取りながら、リピーターを獲得することが可能です。さらに、ふるさと納税やクラウドファンディングを活用することで、地域の特産品としての認知度を高めることも効果的です。
農業マーケティングの成功事例
この章では、農業マーケティングの成功事例について紹介します。導入のイメージ作りや戦略設計の参考にしてみてください。
【販売チャネルの多様化】いちご農家のネットビジネス
1つ目の事例は、栃木県小山市のいちご農園・いちごの里ファームさんです。
いちごの里ファームさんは、通信販売を活用した販売チャネルの多様化により成功しています。
実店舗に来店した顧客をそのままにするのではなく、毎度名簿に登録する、キャンペーンの実施で住所を獲得するなどして、季節のDMなどで通販に誘導するといった手法をとっています。
また、商品開発の姿勢も参考になります。名物商品が特定の時期にしか販売できないという課題を解決するために、通年販売できるお菓子や飲み物を新たに開発・販売しています。
▼いちごの里ファームさんのウェブサイトやSNSはこちら
【ブランドイメージで差別化】宮崎の高級マンゴー
2つ目の事例は、特定の農家ではなく、宮崎県をあげたブランドイメージ戦略で成功したマンゴー「太陽のタマゴ」です。
「売れるものを作る」という収益力の高い農業経営を目指した宮崎県は、特定の地域がシェアを占めていたマンゴー栽培に着手します。
高級ブランドとしての品質を確立できたのは、県をあげての取り組みによる大きなリソース確保という点も大きいと思いますが、ブランドイメージの確立によるブレイクという点で、農業マーケティングにおけるブランドイメージでの差別化の成功例として取り上げました。
この事例について詳しく知りたい方は、「政府広報オンライン:宮崎産の完熟マンゴー」をご覧ください。