Coziesのロゴは、名刺作成をきっかけに誕生しました。本記事では、プレゼンテーションデザイナー・吉藤智広さんとCozies代表・大野の対談を通じて、ロゴに込められた想いや、ブランドを形にするプロセスを深掘りします。
名刺から始まったCoziesのブランド誕生秘話|吉藤智広×大野 対談
目次
吉藤智広さんの経歴について
今回インタビューしたのは…
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プレゼンテーションデザイナー。吉藤智広さん。
2014年、日本人で初めてPreziエキスパートの公式認定を取得。
2015年~2017年はシンガポール、2018年~日本を拠点に活動。国際サミット、カンファレンスをはじめイベントや展示会など、国内外のプレゼンテーションデザインを数多く手掛ける。プレゼンテーションデザインの国際コンテストPrezi Awards 2018および2019において、最高栄誉にあたる"Prezi Expert: Best Overall" を2年連続受賞。2020年からはオンラインプレゼンテーションの支援・普及活動を行い、2021年1月、Prezi社が選ぶ世界で10人の”Virtual Presentation Innovators”のひとりに選出。2022年11月、Microsoft MVPを受賞。
出会いはプレゼンテーションイベント
大野(Cozies):
本日はよろしくお願いします。まずは私たちの出会いからお話できたらと思います。私たちの出会いは最初は確か12年ほど前の記憶です。プレゼンテーションのイベントでしたよね。
吉藤:
そうだね。もともと海外のソフトを日本向けに翻訳・調整するローカライズという仕事をしていました。ローカライズとは、PCなどは基本的にUSの会社が作っていて、それを日本向けに翻訳したり、デザインを調整したりする仕事です。そこでプロジェクトマネージャーをしていました。その中でPreziというプレゼンテーションソフトに出会いました。
実際に使ってみると従来のプレゼンツールにはないユニークさがあって、将来的にローカライズの仕事につながればと思い、Prezi社へ日本語化の提案書を送りました。(※提案書はこちらからご覧いただけます。)
誰に送ればいいか分からなかったので、調べて出てきた社長のピーターとセールスチームに送ったんだよね(笑)。基本的に数十社に送っても、ほとんど返信はないのだけど、提案書を送ってから10か月後、Prezi社から会社宛てに連絡がありました。ローカライズの仕事はすでに進行中で難しいものの、資料の作り方が面白いから話をしたいと言われたんだよ。
ちょうど同じ時期に、語学学校でローカライズの外部講師もしていて、この講義で使っていた資料が受講者から評判も良かったりして。この2つの経験が重なり、資料作成の面白さに気づいたころでした。
Preziを使っているうちに、Preziのオペレーション担当者からイベントに参加しないかと声をかけてもらいました。その時に誘われたのが、本郷三丁目にある学生が運営するコミュニティスペース「Labcafe」(以下、ラボカフェ)でのプレゼンテーションイベントで、そこで大野さんと出会いました。(当時のプレゼンテーション資料はこちらからご覧いただけます。)
その頃、大野さんはPreziの学生アンバサダーとして活動していて、Preziのイベントのたびにサポートしてくれましたよね。
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大野(Cozies):
そうでしたよね。当時私はラボカフェで、Preziのサンフランシスコ支社で働いていた奥田さんと出会い、その延長でイベントに参加してた記憶です。
Preziを初めて見たとき、その独自性に一目惚れしました。日本のプレゼンとは全く違って、拡大・縮小を駆使した画期的なツールだ!と感じたんですよね。そこで、奥田さんに自分の熱意を伝えたところ、Preziのエバンジェリスト(学生インターン)として、日本市場でのマーケティング活動をお手伝いする機会をいただいたという流れでした。
吉藤:
2012~2013年頃は、Preziはまだ日本ではあまり浸透していなかったけど、海外留学経験のある人や海外志向の強い人の間では人気があったよね。当時は持ち時間5分程度でプレゼンを行うライトニングトークが流行していて、短時間でインパクトを出せるPreziとの相性が良かったんだ。僕も遊び感覚でPreziを使っていたんだよね。
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大野(Cozies):
そうですね!出会った当時から吉藤さんのプレゼンデザインは、スタイリッシュで「すごい!」「かっこいい」という印象でした。今でも、吉藤さんは私にとってデザインの師匠のような存在で、常にクリエイティビティを学ばせていただいています。当時は吉藤さんが独立前でしたよね。吉藤さんの独立はどんなきっかけでしたか?
吉藤:
会社の新規事業として何かやってみないかと言われたときに、プレゼン事業を提案したことからだったんだよね。だけど、当時は社内で正直あまり評判が良くなかった(笑)。
実際に始めてみると、少しはお客様がついてくれたものの、大きく広がることはありませんでした。会社からも「まだうちには早い」と言われ、あまり受け入れてもらえなかったんです。ただ、ベンチャー企業からの評判は良くて、作った資料をお客さんがピッチコンテストなどで使ってくれて。そのプレゼン資料を見た人から依頼が入るなど、徐々に反響が出てきました。
直属の上司はベンチャー気質のある方だったので、プレゼン事業を応援してくれていました。しかし、その上司が退職して独立することになり、社内の状況が一変。会社からは「プレゼンの仕事はうちのスタイルに合わないから、ローカライズの仕事に専念するように」と言われてしまったんです。そこで思い切って「この仕事を持ち出して独立してもいいですか?」と相談し、独立を決意したのがきっかけです。
大野(Cozies):
そうでしたね。その後シンガポールに行かれましたよね。
吉藤:
2014年に独立し、シンガポールに3年間滞在しました。最初は全く資金もなく、苦しい状況でした。けれどその後、現地の日本企業から少しずつ仕事をいただけるようになりました。イベントのオープニング映像の制作依頼など、徐々に仕事の幅が広がっていきました。その後、家族の事情で2017年の終わりに日本へ帰国し、帰国後も、引き続きプレゼンテーションデザイナーの仕事をしています。
余談なのだけど、独立当時は今みたいにインターネット回線がよくなく、よく画面が固まっていました(笑)。なので、事前にファイルを送り、画面共有もプレゼン画面と音声通話を別々に繋げて、クリックのタイミングを指示しながら進めるなど、工夫しながらオンラインでやり取りしていました。
大野(Cozies):
よく考えると、リモートで仕事する先駆けですよね。私が名刺デザインのご相談をしたのは、日本に帰国された後の2020年1月頃でした。実は、私が独立したら「吉藤さんに名刺を作ってもらうぞ!」と密かに思っていたんです(笑)。
吉藤:
仕事柄、独立を考えている人から相談を受けることが多いんだけど、大抵の人は「辞める」と言いながらも、なかなか踏み切れないことが多いんだよね。
でも、大野さんは「1年後くらいに独立するかも」と言ってて、その時に名刺を作ってほしいって話があったから、頭の片隅では考えてたんだけど…。実際は、その数か月後に「独立したので名刺を作りたいんです」っていう事後報告兼依頼の連絡でかなりびっくりした記憶があります(笑)。
大野(Cozies):
そうだった気がします(笑)。ぶしつけなお願いに答えてくださり、本当にありがとうございます。
名刺から始まったCoziesのブランド
吉藤:
最初に依頼してくれたとき、確かまだ屋号が決まっていなかったよね。なので、屋号無しで大野さんの名前で作った記憶があるよ。それから1か月後くらいに「Coziesに決まった」って連絡をもらったんだよね。
大野(Cozies):
会社設立時にお願いしていたと記憶していたのですが・・・確かに名刺作成をお願いしていたときは、会社設立直前で、まだ個人事業主でしたね。
話しながら思い出してきたのですが、ちょうど吉藤さんにご相談したそのタイミングで、会社にして、しっかりやってみようと思ったんです。どういう世界を創りたいかに向き合い、屋号にしようと思ったんですね。ちょうど人生の過渡期で、今後の方向性に悩んでいた答えが会社設立でした。
吉藤:
すごく悩んでいたよね。個人でやっていくのか、組織にするのかって。会社名だけ教えてもらったんだけど、ロゴデザインの依頼は特になくて。たぶん、文字だけ加えればいいって思ってたのか、ロゴ作ってって言いにくかったんだと思うんだけど。でも、会社名だけ渡されても、ただ文字を打つだけじゃ味気ないし、どうしようかなと思って。だから、勝手にロゴを考えてみた(笑)。
Coziesの想いを言葉にしてもらっていたし、Pinterestでイメージ画像も送ってもらってたから、それをヒントにイメージしてデザインしてみた。タグラインがちょっと長かったから、短くしたり、いくつか提案も入れて、デザインを送りました。
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ロゴは2パターン作ったんだけど、一つはPinterestでもらっていたイメージ画像をもとに、柔らかくてエレガントな感じで、ちょっと化粧品ブランドっぽい雰囲気に寄せたもの。
もう一つは、デジタルマーケティングらしさを出したくて、Coziesの「i」を電波や成長するグラフのイメージで作ったもの。「i」を強調したのは、個人で立ち上げたことを象徴したいという意味もありました。結果的に、後者のロゴに決まったけど、サンセリフ体のすっきりとしたタイポグラフィで、5年経った今の風潮から見ても風化しにくいデザインになっていたかなと思います。
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当時はプレゼンの仕事がメインだったから、デザインはよっぽど気に入ってもらった人にしかやってなかったんだよね。だから、「頼まれてないけど、作ってみたよ」っていう感じだったかな。
大野(Cozies):
デザインが上がってきて、本当に大感動しました。想像以上のかっこよさになっていました。なにより、心意気が本当にありがたかったです。また、私の頭の中がこんなふうに形になるという経験がなかったので、なにか大きな未来を掴んだ感覚を得たことを記憶しています。想像していた未来が現実に生み出されるってこんな感じなのかなと。
吉藤:
何もないところから企業のイメージを考えて、それがデザインや一つのビジュアルとして形になると、具体的に考えやすくなるんだよね。さらに、実際にモノとして触れられるようになると、ロゴとかができた瞬間にちょっとテンション上がるよね。
デザインの力って役に立つんだなって、この仕事のそういう経験を通して、実感するんだ。数値では測れないけどね。
実は名刺ってすごく大事。渡す相手のためでもあるけど、自分で立ち上げた会社や組織の名刺って、やっぱり思い入れがあるし、手にした瞬間にやっぱり気分が上がる。
気に入ったロゴをずっと使い続けるのもすごく大事だと思う。自分も、屋号のロゴを使ってパーカー作ったり、いろんなものを作って楽しんでるよ。
大野(Cozies):
名刺ができて、ロゴができて。イメージがどんどん具体的になっていく過程で、「会社にしよう」という想いが強くなりました。モノとして形になって、ビジョンの輪郭がみえたとき、「このまま一人でやっていくんだっけ?」という問いに対して「違うな」と思っていきました。
吉藤:
最初は一人でできることだったのが、少しずつスケールが大きくなって、だんだんと「組織化しないとできないこと」みたいな理想に変わっていくのを、相談を受けながら間近で感じていました。
本人はものすごいスピードで成長してるから、あまり自覚がないかもしれないけど。そうやって企業が形になっていく様子を見ていると、すごく面白いなって思うよ。
大野(Cozies):
本当に成長過程を見守っていただけることに感謝しかないです。渦中にいる本人は成長している自覚はあまり無かったです(笑)。吉藤さんのデザインのインスピレーションはどこから来るのですか?
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吉藤:
自分が興味あること以外の色んなものを見て、インスピレーションを受けているよ。
建築とか製品パッケージだったり、古い民芸品や織物だったり、あるいは女性向けファッション雑誌だったり、一見プレゼンテーションのデザインに関係なさそうなアートやデザインに惹かれることが多い。そこから得たものから「このデザイン、プレゼンに取り入れたらカッコよくなるかも!」という最初のスタートが生まれたりするんだ。資料をきれいにするだけでなく、色々取り入れてみたいと思うんだよね。
「今あるものをパワポで作ったらどうかな?」といった具合に、インスピレーションを受けたものを色々試して挑戦してみる。興味があちこちにあり、真面目にやってるというより、遊んでる感覚に近いかもね。もっというと「悔しい」からやる感覚も強い。自分よりすごい人を見ると、「自分にもできるんじゃないか?」と思い、つい真似して挑戦したくなる。そうすると、やっぱり全然敵わなくて、今でも落ち込んだりするよ(笑)。
後は、学生時代にいろんな言語に触れてた影響もあるかもしれない。言語が好きで、日本語や英語だけでなく、フランス語やドイツ語、アラビア語で検索してみたりもするよ。違う言語のデザインを見ると、自分の視野も広がるし、新しい発見があるんだよね。
大野(Cozies):
吉藤さんのデザインって、いい意味で日本のカルチャーっぽくなく、どことなく海外スタイルな印象があると感じるのですが、改めて聞くと納得します。だから海外の雰囲気がどことなくデザインにあるんですね。
会社のカラー・パワーポイントにも展開
大野(Cozies):
名刺から始まり、ロゴができて、その後にパワーポイントのテンプレートもお願いしましたよね。その際に、カラーのトンマナも一緒に作成していただきました。
吉藤:
そうだね。合わせて作成させていただきました。
プレゼンのテンプレートって、企業によっては年数が経つと少しずつ変わっていくことが多いよね。
大野(Cozies):
これらは今でも大事に使っています。特にカラートンマナは、ブランドの統一感を保つために、パワーポイントから派生して、サイトやそれ以外のブランドの発信時の世界観統一で今もなお、当時のトンマナ規定で作成しています。こちらも本当に有り難い限りです。
吉藤:
ブランドのイメージを統一するのって、なかなか難しいところがあるなと感じるよ。
例えばプレゼンテーションの資料だと、社内の得意な人がパワーポイントを手直ししたりするんだけど、最近だとCanvaみたいにオンラインで簡単におしゃれなプレゼンが作れるツールが出てきたこともあって資料デザインの自由度がすごく上がってる。これはすごく楽しいことだけど、一方で外から見たときの企業の見え方にブレが出やすいという側面もある。
だから、ブランドの世界観を大切に思ってもらって、最初に決めたルールを守って、こうして大切に使ってくれているのは、本当に嬉しいし、ありがたいよ。
大野(Cozies):
こちらこそ本当にありがたいです。本当にブランドの起点は吉藤さんが創ってくださった名刺とロゴです。そしてカラートンマナまで出来上がり、頭が上がりません。これらの創られる過程を通して、ブランドを創るということを私も実体験で学びました。ブランドは世界観の統一が重要ですね。この後も、これらのデザインを起点に、アップデートしながら、ブランドを育てていきます。楽しみです。
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市場を切り拓くパイオニア|吉藤智広が語る未来の可能性
大野(Cozies):
「プレゼンテーションデザイナー」っていう肩書きを最初に日本で名乗ったのって、多分吉藤さんが最初なんじゃないですか? まさにパイオニアですよね。
吉藤:
日本で言い出したのは、そうかもしれない。日本グラフィックデザイン協会に加盟したときに、「プレゼンテーションデザイナーって初めて聞いた」って言われたんだよね。それくらいニッチな職業なんだなって改めて思った。
独立した頃は、プレゼンテーションを外注するというマーケット自体がそもそもなかったんだよね。Webサイトは外注するのに、プレゼンは社内でやるのって、よく考えたらおかしくない?って思ったのがきっかけで、そういうサービスがあれば需要があるんじゃないかと思ったんだ。
今では検索すると、プレゼン資料作成っていろんなサービスが出てくるようになっていて、少しずつ市場ができてきたなと感じるよ。
大野(Cozies):
まさにパイオニアですね。ビジネスと新しいカルチャーを生み出していますね。
今後はどういう未来を創りたいなどありますか。
吉藤:
プレゼンを作る必要がない時代が来たらいいなと思います。誰もがスムーズに情報を伝えられる世界になったら最高だよね。
結局、プレゼンは分かりにくいものを分かりやすくするための手段。
ローカライズの仕事をしていたときに当時の同僚が言っていたのが、「アメリカで開発された商品があっても、日本語しかわからない人はその恩恵を受けられない。それはすごくもったいない。言葉の壁で情報が止まっているなら、その壁をなくすために自分たちは翻訳するんだ」と。
この時の考え方が今のプレゼンの仕事にすごくつながっていて、「言葉の壁」をなくすのが翻訳なら、「分かりにくさの壁」「伝わりにくさの壁」をなくすのがプレゼンじゃないかと思ったんだ。
誰かが生み出した素晴らしい技術も、伝え方次第で広がるかどうかが変わる。だから、僕はプレゼンを通して、そうした技術やアイデアを分かりやすく伝え、多くの人に届けることを大事にしている。
もしも考えてることが一瞬で相手に伝わる技術ができたら、プレゼンなんて必要なくなるわけで。たとえばイーロン・マスク氏のNeulalinkのように、脳にチップを埋め込んで脳とコンピュータや通信機器を繋ぐ技術が発達すれば、情報を直接相手に伝えられるようになるかもしれない。『今から社長がやろうとしてることをみんなに配信しとくね。はい。』みたいな。
そういうプレゼンを作る必要がない世界が来たら、僕の仕事はなくなるかもしれないけど(笑)、でもこの仕事の目的は達成されてるし、なによりそんな世界はとても面白そうだなって思う。
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大野(Cozies):
吉藤さんがプレゼンテーションデザイナーとして築き上げてきた実績や市場の広がりを見ていると、挑戦の積み重ねが、やがてスタンダードになっていくのだなと改めて感じました。最初はマイノリティかもしれませんが、「こうなればいい」というポジティブな未来創造の発想が世界を創るのだと思います。
Coziesも、プレゼンテーションデザインの市場のように、まだ世の中に浸透していない分野でも、「こんなサービスがあれば助かる」と思ってもらえるものを提供することで、市場を切り拓いていく、新たな価値や文化を生み出す存在を目指したいですね。
今後も生み出していただいたブランドの世界観を大切に育てていきます。貴重なお時間をありがとうございました!
プレゼンテーションデザイナー 吉藤智広さんのご紹介
「re-presentation.jp」 というブランドを掲げて、プレゼンテーションをデザインするさまざまなお仕事をしています。
re-presentation.jp =日本の(jp)、プレゼンを(presentation)、 もう一度見直す(re-)。
プレゼンテーションのプロフェッショナルとして、新しいプレゼンのカタチを常に探究し続けています。
PreziやPowerPointのデザイン、制作代行、使い方講座、プレゼンコーチング。プレゼンテーション資料でブランド力を高めたい方は、お問い合わせください。
公式HP https://re-presentation.jp/
取材日時:2025年1月