そもそもCookieとは
Cookieとは、インターネットユーザーがウェブサイト(SafariやChromeなど)を訪問した際に残した以下のような情報を、一時的に保管しておく仕組みのことです。
サイト内の行動履歴
入力した利用者のデータ
訪問回数の履歴
訪問日
ログイン情報
Cookieによってウェブサイト訪問時の情報を保管することで、例えば「最初にECサイトにIDとパスワードを入力しログインすれば再アクセス時にもう一度ログインする必要がない」「ウェブサイト内の閲覧履歴をもとに利用者の好みにマッチした広告を表示する」などを実現できます。
Cookieの存在は、ユーザーと企業の双方にメリットがあります。
ユーザーのメリット:ウェブサイトの利便性が高まる
例えば、Amazonや楽天などのショッピングサイトで一度商品をカートに入れた際、サイトから離れたり別のページを開いたりしても、商品は引き続きカートに入っています。そのため、再度商品を探して選び直す手間がありません。
また、ECサイトや会員サイト、ネットバンキングなど、各種サイトで最初にIDやパスワードを入力しログインしておけば、一定時間経過後にアクセスしても再入力せずログインできます。
さらに、Cookieの保管情報をもとに、ユーザーの趣味嗜好にマッチした広告配信やECサイトでのオススメ商品レコメンドなども実施できます。
上記のような利便性は、Cookieにユーザーデータが保管されているからこそ実現できることです。
企業のメリット:自社のマーケティング施策に応用できる
例えば、ユーザーの自社サイト上における行動履歴があることで「このページが見られているから◯◯に興味があるのでは?」と推測して適切なコンテンツを発信したり、ユーザーの属性に合わせた広告を提供したりできます。
サイト運営や広告配信を行うだけでなく、コンテンツ発信や広告運用結果をもとに、施策を改善したり事業展開したりすることなどにも応用できるでしょう。
企業にとってユーザーデータは、まさに「資産」です。この資産を活用して自社の成長に役立たせることができるのは、Cookieの大きな魅力といえるでしょう。
パーティCookieは3種類
Cookieには、大きく以下の3種類があります。
ファーストパーティCookie
ファーストパーティCookieとは、ユーザーが訪問しているサイト自体が、第三者を経由せず収集するCookieのことです。訪問サイトのドメインが直接発行するため、自社サイト内のユーザー行動履歴(閲覧ページやCVに結びついたコンテンツの特定など)をより細やかに把握・分析できます。
ただし、自社サイトのドメイン内でしか機能しないため、ユーザーが他のデバイスから閲覧したり他のサイトに移行したりした場合は、トラッキングできずデータは蓄積されません。
セカンドパーティCookie
セカンドパーティCookieとは、ユーザーが訪問した他社ドメインが収集し保管しているファーストパーティCookieのことです。
セカンドパーティCookieは、購入したり共有したりすることで収集できます。収集方法としては、例えば「メディアが収集したデータを広告主に販売する」「収集データを子会社やパートナー企業と共有する」などが挙げられます。
サードパーティCookie
サードパーティCookieとは、ユーザーの訪問サイトとは別の「第三者のドメイン」が発行するCookieのことです。Cookieを発行する「第三者」の例としては、GoogleやYahoo!、Microsoftなどの媒体が挙げられます。
上記の第三者がCookieを発行することで、サイトを横断してユーザーの行動履歴を追ったりデータを保管したりすることが可能です。
例えば「ウォーターサーバーのサイト閲覧後、まったく別のサイトを見ていたらウォーターサーバーの広告が出てきた」などは、サードパーティCookieによって実現されています。サードパーティCookieは第三者が発行するため、自社サイトに負担がかかりません。
しかし、サードパーティCookieでは特定の第三者が大量の個人情報を保有できてしまいます。そのため、後述するようなCookieの規制が開始されたのです。
Cookie規制はいつ始まる?規制の最新動向【2024年8月最新】
まず結論から述べると、今回Cookieの規制対象となるのは、上記3種類のうち「サードパーティCookie」です。上記で述べたようにサードパーティCookieは、特定の第三者に大量の個人情報が集中します。多くのデータを紐づけられる状況は「個人情報保護の観点」から見ると改善が必要なため、サードパーティCookieが規制されることになりました。
本章では、Googleを始めとする各ブラウザごとの規制状況を紹介します。
Google社Google Chrome | 「サードパーティCookie廃止」の代案を発表
Google(Chrome)はサードパーティCookieを廃止する方向で進んでいましたが、2024年7月、Cookieの廃止を撤回すると発表しました。
発表によると、Googleは「サードパーティCookieを廃止する代わりに、Chromeに新しい機能を導入する」としています。この新しい機能についての詳細は明らかになっておらず、現在協議中であることがわかっています。
参照:ウェブ向けプライバシーサンドボックスの新しいアプローチ
また、今後ChromeのシークレットモードにIP保護機能を導入する予定があることも発表されています。
Apple社Safari | 2020年からサードパーティCookieを完全にブロック可能
Apple社のSafariでは、すでに2017年からサードパーティCookieが廃止されています。2017年に「ITP(Intelligent Tracking Prevention)」というトラッキング防止機能がSafariに実装され、バージョンアップを繰り返し規制がさらに強化されました。
2020年9月以降は、SafariからサードパーティCookieがデフォルトで完全にブロックされており、ファーストパーティCookieやLocal Storageも最大7利用日を経て削除されます。
Microsoft社Microsoft Edge | サイトに有害なトラッカーをブロックする仕組みを導入済み
Microsoft社のMicrosoft Edgeでは、ブラウザに追跡防止機能を搭載することで、サイトに有害なトラッカーをブロックできるようになりました。とはいえ「サードパーティCookieを全面廃止する」という厳格な設計ではなく、一部サイトによってはサードパーティCookieが利用できます。
なお、Microsoft EdgeはGoogle社が開発したブラウザエンジンを使用しているため、Cookie規制の動きも「Google社に合わせるのでは?」という憶測もあります。
Cookie規制が強まる背景
このように、各社はCookie規制の流れを強めています。それでは、なぜCookie規制の流れが強くなっているのでしょうか?規制強化の理由としては「プライバシー保護の観点」が大きく影響しています。
世界的なプライバシー保護の動き
世界的に見ても、インターネットユーザーのプライバシーを保護する流れは活発化しています。
Cookieにはユーザーの個人情報や趣味嗜好、サイト上の行動履歴などが保管されているため、慎重に取り扱う必要があります。同意がないまま第三者の手に渡りプライバシーを侵害しないよう、世界的にCookie規制の流れが強まっているのです。
具体的には以下のような動きがあります。
2018年にEUがGDPR(EU一般データ保護規則)を施行する
2020年にアメリカ合衆国カリフォルニア州がCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)を施行する
さらに2022年には、フランスのデータ保護機関であるCNIL(情報処理・自由全国委員会)が、Googleとmetaに対し「Cookieの拒否を複雑にしたことは違法」として、約275億円の制裁金を科しました。Cookieを拒否するには複数回のクリックが必要となっており、この点がネットの公正な情報の取り扱いや同意方法を定めたフランスの国内法に違反した形です。
日本国内でも規制が進む
日本でも世界の動きに追従する形で、Cookie規制を含め以下のようにプライバシー保護に関する法整備が進んでいます。
改正個人情報保護法
改正個人情報保護法は、2022年4月に施行されています。
個人情報保護委員会の見解としては、元々の個人情報保護法では「生存する個人に関する情報であって、個人情報、仮名加工情報及び匿名加工情報のいずれにも該当しないもの」が個人関連情報として定義づけられていました。
改正によって、以下のように「個人関連情報にCookieデータが該当する」という点に言及されています。
▼個人情報保護法のCookie規制への言及箇所
ターゲティング広告には、個人情報が使用される場合もあるが、個人情報を含まないユーザーデータのみが使用される場合が多い。例えば、クッキー等の識別子に紐づくユーザーデータであっても、他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができる場合は個人情報となるが、従前、ターゲティング広告の多くでは、個人を特定しない形で行うことが業界の慣行となっていたところである。
一方、ここ数年、インターネット上のユーザーデータの収集・蓄積・統合・分析を行う、「DMP(Data Management Platform)」と呼ばれるプラットフォームが普及しつつある。この中で、クッキー等の識別子に紐付く個人情報ではないユーザーデータを、提供先において他の情報と照合することにより個人情報とされることをあらかじめ知りながら、他の事業者に提供する事業形態が出現している。
ユーザーデータを大量に集積し、それを瞬時に突合して個人データとする技術が発展・普及したことにより、提供先において個人データとなることをあらかじめ知りながら非個人情報として第三者に提供するという、法第23条の規定の趣旨を潜脱するスキームが横行しつつあり、こうした本人関与のない個人情報の収集方法が広まることが懸念される。
引用:個人情報保護委員会「個人情報保護法 いわゆる3年ごと見直し 制度改正大綱」
Cookieは「個人情報に該当しない個人に関する情報」であるため、本来であれば第三者への提供時に本人の同意が必要です。
しかし「個人情報に該当しない」という理由で第三者へのデータ提供が発生したことから、法改正によってCookieのデータも明確に「個人関連情報である」と定められました。
改正電気通信事業法
改正電気通信事業法は2023年6月に施行されています。
改正電気通信事業法でCookie規制と関わるのは「外部送信規律」の部分です。
▼外部送信規律とは?
まず外部送信とは、ユーザーのスマホやパソコンなどに保管された個人情報を、該当ユーザー以外の電気通信設備(ウェブサーバ等)に送信することです。そして外部送信規律では、上記の場合において「送信する個人情報の内容・送信先・利用目的など」をユーザーが確認できる機会を設けることを義務付けています。
事業者はユーザーに対し、外部送信する個人情報の内容や利用目的などを、以下のルールに則り通知あるいは公表することが必要です。
参照:総務省「外部送信規律」
Cookieデータを外部送信する際も、上記のルールに従ってユーザーへ通知する必要があります。
ただし、自社が独自に収集したファーストパーティCookieについては、通知あるいは公表の義務はありません。
Cookie規制がデジタル施策に及ぼす影響
このように、日本を含めて世界各国でCookie規制は強化されています。今後も規制が強化されることで、ユーザーや広告主、ウェブ開発者、デジタルマーケティング施策の実施など、幅広い部分に影響を与えるでしょう。
具体的にCookie規制によって、デジタルマーケティング施策に以下の影響が及ぶと考えられます。
ターゲティングが困難になる
分析精度が低下する
自動入札の精度が低下する
ターゲティングが困難になる
サードパーティCookieの制限によって、詳細なターゲティングおよび広告配信が困難になります。
サードパーティCookieは、主にオーディエンスターゲティングで活用されていました。オーディエンスターゲティングとは、ユーザーの居住地や性別、年代、興味・関心、価値観、サイトの閲覧履歴など幅広い情報をもとに実施されるターゲティングのことです。主に、訪問ユーザーが別サイトを閲覧した際に広告を表示する「リターゲティング広告」などで活用されています。
サードパーティCookieによって幅広いサイトのユーザー行動を分析することで、このオーディエンスターゲティングを、高精度かつボリューミーな形で実現できていました。
しかしCookie規制により、入手できる個人情報の幅が狭まるため、ターゲティングの精度が落ち広告の配信量も低下すると考えられます。
分析精度が低下する
上記で述べたように、Cookieの規制はターゲティングの精度低下につながります。
従来まで企業は、Cookieを参考にユーザーのサイト内のおける行動履歴をチェックし、「どのような経緯でCVしたのか?」「CVまでにユーザーは何度サイトを訪問したのか?」などを計測していました。
しかし規制が強化されることで、従来までCookieで計測していた箇所は、広告媒体側で数値をチェックできなくなります。正しい数値を計測できなければ、「何が要因でCVしたのか?」という分析の精度が低下し、マーケティング施策の改善や策定に多大な影響が出るでしょう。これによって、各広告媒体や広告の効果計測ツールにも影響が出る可能性があります。
とくにアトリビューション分析を実施している企業にとって、Cookie規制は大きな打撃です。アトリビューション分析とは、CV時にクリックされた広告だけでなくCVにつながるまでのすべての経路を突き止め、各ポイントにおける「CVへの貢献度」を計測することを指します。
このアトリビューション分析を行うには、複数サイトにおけるユーザー行動の把握が必要です。サードパーティCookieが規制されれば、複数サイトのユーザー行動分析が難しくなるため、精度は低下します。
自動入札の精度が低下する
ウェブ広告における自動入札では、キャンペーンの目的や戦略、過去のCVデータなどに応じて、適切な入札価格が設定されています。つまりCVデータが多いほど、広告出稿のシステム精度が高まり、適切な価格で自動入札を実施できるのです。
しかし、Cookie規制によって収集できるCVデータが減少すれば、入札価格を決める際の判断材料も減ります。これによって計測精度は低下し、最終的な自動入札精度も下がるでしょう。
Cookie規制に向けて今から取り組むべき対策
このようにCookie規制によって、デジタルマーケティング施策をはじめとして、多方面に影響が及びます。こうしたCookie規制へ対応するには、サードパーティCookieへの依存から脱却し、以下の対策を行うことが大切です。
ファーストパーティCookieの活用
Cookieを使わない広告手法の導入
広告以外の方法を導入
ファーストパーティCookieの活用
規制対象となるのは、主にサードパーティCookieです。自社サイトのドメインから発行するファーストパーティCookieは引き続き活用できるため、今後はファーストパーティCookieを軸にした施策を展開しましょう。
ファーストパーティCookieを活用するには、自社に「どんな情報が・どのような形で・どこに保管されているか?」などを確認する必要があります。こうした情報を把握し自社の施策へ活用するには、Google アナリティクス 4(以下GA4)の活用が有効です。
GA4とは、ウェブサイトやアプリ訪問ユーザーの行動を分析できるツールのことです。ウェブサイトや各種広告、複数端末のユーザー行動、アプリ上のユーザー行動など、幅広いデータを分析できます。
GA4ではファーストパーティCookieを用いてデータを取得しているため、規制の影響を受けません。規制を受けずにユーザーの情報を活用して広告を配信するのであれば、積極的にGA4を活用しましょう。
GA4の具体的な導入方法や基礎設定などについては「GA4(Google アナリティクス 4)とは?|設定から実践までわかりやすく解説」で解説しています。
Cookieを使わない広告手法の導入
広告の中には、以下のようにCookieを使わず利用できる手法もあります。
コンテキストターゲティング
Googleファインド広告
コンテキストターゲティング
コンテキストターゲティングとは、ユーザーではなく「ウェブページ内の情報」をもとにターゲティングして広告を配信する手法です。ユーザーが閲覧したウェブページ内のテキストや画像、コンテンツの文脈などをAIが読み取り、指定キーワードやトピックと関連性の高い広告が配信されます。例えば、「ウォーターサーバーの記事を読んでいるユーザーにウォーターサーバーの広告を表示する」などが挙げられます。
コンテキストターゲティングでは、ウェブページ内の情報を直接分析するため、Cookieによるユーザーデータは不要です。
Googleファインド広告
Googleファインド広告とは、Googleの保有サービス(YouTube・Gmail・Googleディスカバーフィード)内で定められた枠に配信できる広告のことです。
Googleログインユーザーの検索履歴や動画視聴、サイト閲覧履歴などを参考に画像やテキスト形式で広告を配信します。Googleの保有情報をもとに広告を配信するため、Cookie規制を受けません。
他の広告よりターゲティング精度が低下したり配信デバイスを指定できなかったりするなどデメリットはあります。しかし、ひとつのキャンペーンを作成すればGoogleのサービスへ一斉配信できるため、アプローチできる数は増えます。
広告以外の方法を導入
他にも、以下のように広告以外の方法でユーザーにアプローチしましょう。
コンテンツSEO
コンテンツSEOとは、ユーザーにとって価値あるコンテンツを継続発信して信頼関係を構築し、最終的に自社のCVへつなげる手法のことです。ユーザーの検索ニーズを満たすコンテンツを提供し続けることで、検索エンジンからの評価が高まり記事が上位表示され、結果的にSEO経由での集客につなげられます。
ただしコンテンツSEOは、広告と異なり短期間で成果を出すことが難しい施策です。ユーザーの悩みや課題を解消する良質なコンテンツを積み重ねていくため、長期的なサイト運営が必要です。そのため、可能であれば「広告を回しながらコンテンツSEOに取り組んで長期的な資産を作る」というように並行して進めることが理想です。
SNS運用
SNS運用は、SNSマーケティングの一部です。例えば「SNS広告を配信して潜在顧客から認知を獲得する」「フォロワーと交流を図りECサイトやウェブサイトへの流入を図る」などが挙げられます。
SNSのユーザー層は媒体(Facebook・Instagram・X(旧Twitter)・LINEなど)によって異なるため、自社商品やサービスとの相性を考えて運用しましょう。
コンテンツSEOと同様に、SNS運用も長期的な視点が必要です。しかし、フォロワーとの交流や価値あるメッセージの発信によってファンが集まれば、商品やサービスの購入につながります。さらに、ファンとなったフォロワーが自発的に自身のSNSで宣伝してくれれば、コストをかけずに次の新規顧客を獲得できるでしょう。